夜男

夜の中でも一番暗くて夜らしきところに男あり。
その男、顔も体も闇に包まれて、まだ誰も男の姿を見た者はなし。桜舞散る春の宵、桜の花びらが宙を舞ったまま止まったかと思ったが、実は男の体にくっついていたのであった。男はそうとは気付かずに幾つもの季節を越えて今に至る。花びらはいつまでもいつまでも宙を舞ったままであった。